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東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)92号 判決

東京都練馬区下石神井三丁目三一番七号

原告

小島辰雄

右訴訟代理人弁護士

松元光則

東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号

被告

豊島税務署長

右訴訟代理人弁護士

国吉良雄

右指定代理人

佐々木宏中

宮淵欣也

榊原万佐夫

主文

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告の昭和四六年分所得税について昭和四八年七月三一日付でした更正及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二原告の請求原因

一  原告は、不動産貸付業を営む青色申告者であるが、昭和四六年分所得税について、原告のした確定申告及び修正申告、これに対して被告のした更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件決定」という。)の経緯は、別表記載のとおりである。

二  しかしながら、本件更正は、以下に述べるとおり違法であり、違法な本件更正を前提としてされた本件決定も違法であるから、原告は被告に対し、本件更正及び本件決定の取消しを求める。

1  原告が取締役となり、かつ実質的な主宰者となっている株式会社豊島駐車場(以下「豊島駐車場」という。)は、株式会社間組(以下「間組」という。)から融資を受け、昭和四六年二月一八日現在の借入金の元利合計額が三億二二二五万五〇四五円となり、原告は、右借入金について保証人兼物上保証人となっていたので、同月一九日原告及び豊島駐車場と間組との間で右借入金を豊島駐車場所有の豊島区南池袋二丁目九五番二ないし六所在の宅地五筆合計三七八・八二平方メートル(以下「本件(一)の土地」という。)並びに原告所有の同所二丁目九五番一所在の宅地一二七・一四平方メートル(以下「本件(二)の土地」という。)及び同所二丁目九五番一三所在の宅地一三二・一六平方メートル(以下「本件(三)の土地」という。)の譲渡代金で弁済することを合意し、同日本件(一)ないし(三)の土地を一括して、代金を本件(一)の土地について二億八四二〇万八〇〇〇円、本件(二)及び(三)の土地について一億九五四九万八四〇〇円として、大和ビル管理株式会社(以下「大和ビル」という。)に譲渡した。

そして、前記借入金について豊島駐車場が本件(一)の土地の譲渡代金のうちから二億七五五七万六三〇〇円を弁済し、残債務額四六六七万八七四五円については、豊島駐車場に弁済能力がないので原告が保証債務の履行として弁済することになり(以下「本件保証債務」という。)、同年八月一八日に原告と間組との間において本件保証債務の履行期限を昭和四七年八月三一日とすることに合意した。

2  原告は、本件(二)及び(三)の土地の譲渡代金で本件保証債務を履行すべく、昭和四六年二月一九日及び同年三月一九日に受領した右譲渡代金一億〇八〇〇万円の一部で同年五月一五日ころ二〇〇〇万円の割引興業債券を購入し、また同年八月末に右譲渡残代金八七四九万八四〇〇円の一部として三〇〇〇万円余りの有価証券を受領して、右譲渡代金を保有していたのであり、かつ本件保証債務は、昭和四六年八月には確定し、豊島駐車場には弁済能力がないので、原告が本件保証債務を履行しなければならないことも同時に確定したのであるから、権利(義務)確定主義の見地から本件保証債務全額について所得税法(以下「法」という。)第六四条第二項の規定の適用を認めるべきである。

3  原告は、昭和四七年八月一〇日本件保証債務の履行として二三二八万三六八九円を間組に弁済したが、その経緯は以下のとおりである。すなわち原告及び間組は、同日原告所有の豊島区南池袋一丁目一〇三番一五所在の宅地八〇・六六平方メートル及び間組所有の同所一丁目一〇三番六所在の宅地六六・二一平方メートル(以下右二筆の土地を合わせて「本件(四)の土地」という。)を一括して代金三億四五〇〇万円で株式会社新栄堂書店(以下「新栄堂」という。)に譲渡したが、間組が原告の財産管理をしていた関係上、同日支払われた手付金五〇〇〇万円のうち原告の取得分三五〇〇万円を一且間組が受領し、間組はこのうちから二三二八万三六八九円を本件保証債務の弁済分として勝手に差し引いた。

原告は、前記のように本件保証債務履行のため本件(二)及び(三)の土地の譲渡代金を保有していたのに、間組の勝手な操作により本件(四)の土地の譲渡代金から右二三二八万三六八九円が弁済されたのであって、このように原告の資金準備にもかかわらず、その意思ではいかようにもできない状態で別の資金から弁済された場合は、右弁済は原告の保有していた本件(二)及び(三)の土地の譲渡代金からされたものと解すべきであり、かつ豊島駐車場に対する求償権の行使は不能であったから、少なくとも右弁済額については法第六四条第二項の規定の適用を認めるべきである。

しかも、その後昭和四八年五月二二日に至り新栄堂との間の本件(四)の土地の前記売買契約は、受領していた手付金五〇〇〇万円に損害金三〇〇〇万円を加えた八〇〇〇万円を支払うことで合意解除されているから、このことからも右二三二八万三六八九円が本件(四)の土地の譲渡代金により弁済されたものということはできない。

4  原告は、本件保証債務額について法第六四条第二項の規定を適用して昭和四六年分所得税の確定申告をしたのに、右規定の適用を否認してした本件更正は違法である。

第三請求原因に対する被告の認否及び主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一及び二の1の事実は認める。同二の2の主張は争う。同二の3のうち、原告主張のとおり昭和四七年八月一〇日原告及び間組が新栄堂に本件(四)の土地を譲渡した事実、同日間組が原告主張の手付金から本件保証債務のうち二三二八万三六八九円の弁済を受けた事実及び原告主張のとおり新栄堂との間の本件(四)の土地の売買契約が合意解除された事実は認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。同二の4のうち、原告が本件保証債務額について法第六四条第二項の規定を適用して昭和四六年分所得税の確定申告をしたことは認めるが、その主張は争う。

二  被告の主張

1  本件更正の適法性

原告は、間組に対し本件保証債務のうち二三二八万三六八九円を弁済したのみで、その余の弁済はしていない。また右二三二八万三六八九円についても、本件(二)及び(三)の土地の譲渡代金で弁済する意思もなく、右代金で弁済した事実もない。

(一) 原告は、本件(二)及び(三)の土地を第三者から取得して大和ビルに譲渡したのであるが、その取得費用がかさみ譲渡益が見込まれないことから、右土地の譲渡代金で本件保証債務を履行することは不可能であるとして、昭和四六年八月間組に対して右土地の取得に要する不足資金八六一三万〇一〇〇円の借用及び本件保証債務の履行期限の延期を申し込み、間組としては、本件(一)ないし(三)の土地を一括して譲渡することを大和ビルに確約しており、もし原告が本件(二)及び(三)の土地を大和ビルに譲渡しなければ間組も大和ビルに対する契約違反により相当な損害を受けるので、やむを得ず右申込みを承諾し、同月一八日本件(一)の土地の譲渡代金により豊島駐車場の前記借入金のうち前記二億七五五七万六三〇〇円のみを弁済することとし、債務残額(本件保証債務額)の履行期限を昭和四七年八月三一日とすることを約した。なお間組は、原告に対し右八六一三万〇一〇〇円を昭和四六年八月一九日及び三一日に貸し付けた。

(二) 原告主張の本件(四)の土地の新栄堂への譲渡は、本件保証債務の弁済資金を得るためされたのであり、昭和四七年八月一〇日原告及び豊島駐車場と間組との間で取り交した覚書による合意に基づき、右譲渡に係る手付金の原告取得分のうちから間組に対し二三二八万三六八九円の弁済がされた。

(三) 原告及び間組と新栄堂との間の本件(四)の土地の売買契約は、原告の契約不履行により昭和四八年五月二二日手付金五〇〇〇万円に契約不履行に基づく担害金三〇〇〇万円を加えた八〇〇〇万円を新栄堂に支払うことで合意解除され、右八〇〇〇万円は、(1)昭和四九年一一月一一日右資金調達の目的で本件(四)の土地及び原告所有の同所所在の建物一棟(以下右土地建物を合わせて「本件(四)の土地建物」という。)という。)を代金三億七〇〇〇万円で株式会社鈴屋(以下「鈴屋」という。)に譲渡し、既に昭和四八年一月二五日受領していた仮受金一億五〇〇〇万円(後に手付金に充当)のうちから六〇〇〇万円を、(2)昭和四八年五月二一日同じ目的で原告所有の豊島区東池袋一丁目二番一三及び一四所在の宅地二筆合計一四六・一九平方メートル(以下「本件(五)の土地」という。)を株式会社松屋外一社(以下「松屋外一社」という。)に譲渡し、同日受領した手付金五〇〇〇万円のうちから二〇〇〇万円をそれぞれ調達し、昭和四八年五月二二日新栄堂に支払った。

以上のごとく、結局原告は、本件保証債務のうち二三二八万三六八九円のみを本件(四)の土地建物及び本件(五)の土地の譲渡代金から弁済しているに過ぎないから、被告が本件保証債務額について法第六四条第二項の規定の適用を否認してした本件更正は適法である

2  本件決定の適法性

被告は、本件更正に基づき国税通則法第三五条第二項の規定により納付すべき税額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課したものである(同法第六五条第一項)。

第四被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  被告の主張に対する認否

被告の主張1の(一)は争う。これに対する反論は後記二の1のとおりである。同1の(二)のうち、本件(四)の土地の譲渡が本件保証債務の弁済資金を得るためされたことは否認する。被告主張のとおり覚書を取り交した事実は認めるが、その事情は後記二の2のとおりである。同1の(三)のうち、新栄堂に支払った損害金等八〇〇〇万円が被告主張の手付金等から調達されたか否かは金員が混同しているので明確でない。鈴屋との間の売買契約の事実は認めるが、右は昭和四八年一月二五日本件(四)の土地建物に他の一筆の土地を加えて八億三〇〇〇万円で売り渡したもので、同日被告主張の手付金(仮受金ではない。)を受領した。松屋外一社との間の売買契約及び手付金受領の事実は認める。

同2の主張は争う。

二  原告の反論

1  原告は、本件(二)の土地を石橋慶一から、本件(三)の土地をアサヒゴム株式会社(以下「アサヒゴム」という。)からそれぞれ取得したのであるが、右取得につき資金不足が生じたことはなかった。すなわち、本件(二)の土地の取得代金については、原告が昭和四六年二月一九日及び同年三月一九日に大和ビルから受領した前記譲渡代金一億〇八〇〇万円から同年二月二〇日一〇〇〇万円、同年三月一九日五一五三万六〇〇〇円を支払って決済しており、本件(三)の土地の取得代金については、右土地の代替地として松島栄作所有の豊島区南池袋二丁目三五番五(公簿上は同所二丁目二一番三)所在の宅地一五〇・四一平方メートル(以下「本件(六)の土地」という。)をアサヒゴムに提供する契約であったので、同年八月三一日その差額三〇九二万二五〇〇円を支払って決済した。したがって、本件(二)及び(三)の土地の取得に要する資金が不足したことはなく、そのために本件保証債務の履行期限を延期したものではない。原告は、本件(六)の土地を更地としてアサヒゴムに引き渡す契約であったところ、立退き交渉が予定どおり進まず、右土地の引渡しの予定が立たなくなったこと、右引渡しについて間組も一種の保証をしていたこと、土地売買に関する諸経費の支払いについて原告と間組との間で検討すべき問題もあり一切が完了してから精算することにしたことなど諸事情が重なって、本件保証債務の履行期限を約一年間延期することにしたのである。仮に原告が本件(二)及び(三)の土地の取得費用として間組から一時借用の必要があったとしても、昭和四六年八月三一日に受領する右土地の譲渡残代金八七四九万八四〇〇円で原告の右借用金一切を返済してなお相当の金員が残ることが分かっていたのであるから、右借用金の関係で一年間も延期する理由も必要もなかった。

2  昭和四七年八月一〇日間組と原告及び豊島駐車場との間で取り交した被告主張の覚書は、原告の財産管理をしていた間組からの一方的な主帳を否定できなかったこと、本件保証債務の履行期限が迫っていたこと、本件(四)の土地の譲渡代金は一且間組が全額受領する契約であったこと、本件保証債務の約半額の弁済を猶予するとのことであったことなどから、原告もやむを得ずその作成に応じたものである。

第五証拠関係

一  原告

1  甲第一ないし第五号証、第六号証の一、二、第七ないし第一三号証、第一四号証の一ないし四及び第一五ないし第一七号証を提出(第一一号証は写をもって提出)

2  原告本人尋問の結果を援用

3  乙号各証の成立(第一及び第二号証については原本の存在及び成立)はすべて認める。

二  被告

1  乙第一ないし第三号証及び第四号証の一、二を提出(第一及び第二号証は写をもって提出)

2  甲第三号証、第八号証、第一三号証及び第一四号証の一ないし四の成立は不知。その余の甲号各証の成立(第一一号証については原本の存在及び成立)は認める。

理由

一  請求原因一及び二の1の事実並びに原告が本件保証債務額について法第六四条第二項の規定を適用して昭和四六年分所得税の確定申告をしたことは、当事者間に争いがない。

二  原告は、本件保証債務額について法第六四条第二項の規定の適用を否認してした本件更正は違法であると主張するので、以下この点について判断する。

1  請求原因二の2の主張について

右主張は、原告が本件保証債務を履行したか否かにかかわらず、豊島駐車場の弁済能力がないことにより原告において右債務を履行しなければならないことが確定し、本件(二)及び(三)の土地の譲渡代金をその弁済資金として有価証券により保有していた以上、法第六四条第二項の規定の適用を認めるべきであるというものであるが、法第六四条第二項の規定の適用は、求償権の発生及びその行使不能を前提とするところ、原告が主たる債務者である豊島駐車場に代って債務を弁済し、その他自己の出捐をもって債務を消滅させる行為をしていない以上、いまだ原告の豊島駐車場に対する求償権は発生していないから、その余の要件について判断するまでもなく、本件保証債務額について同項の規定の適用を認める余地はない。

2  請求原因二の3の主張について

原告及び間組が昭和四七年八月一〇日本件(四)の土地を一括して代金三億四五〇〇万円で新栄堂に譲渡し、同日支払われた手付金五〇〇〇万円のうち原告の取得分三五〇〇万円のうちから、本件保証債務のうち二三二八万三六八九円が間組に弁済されたことは当事者間に争いがない。

原告は、本件保証債務履行のため既に本件(二)及び(三)の土地を譲渡し、右土地の譲渡代金を保有していたのに、間組の勝手な操作により原告の意思ではいかようにもできない状態で他の資金から弁済されたのであるから、右弁済は、本件(二)及び(三)の土地の譲渡代金からされたものと解すべきであると主張する。

成立に争いのない甲第五号証、第六号証の一、二、第七号証、第九号証、第一五号証、乙第三号証及び第四号証の一、二、原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証、原告本人尋問の結果により成立の真正を認められる甲第八号証、第一三号証及び第一四号証の一ないし四並びに原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)を合わせると、次の事実を認めることができる。

原告及び間組は 本件(一)ないし(三)の土地の譲渡代金として大和ビルから昭和四六年二月一九日に一億円、同年三月一九日に一億九〇〇〇万円を受領し、原告は右代金の一部で同年五月一五日二〇〇〇万円の割引興業債券を大和証券株式会社から購入し、また同年八月三一日に受領することになっていた右譲渡残代金の一部として同月二八日三〇〇〇万円の公社債投資信託の受益証券を同社から受領した。原告が右譲渡代金で直ちに本件保証債務を弁済しないで右有価証券で保有することとしたのは、金利の上では損でも手元に金員(有価証券)を保有しておきたかったためと、右有価証券を大和証券株式会社から購入することにより、本件(一)ないし(三)の土地上に同社ないし大和ビルが間組に注文してビルを建設する際の発言権を確保しておきたかったためであった。なお、右公社債投資信託の受益証券は約一年半後に手放し、右割引興業債券は一年の満期後に普通預金とした。

原告は、本件(二)の土地を石橋慶一から取得し、その取得代金六一五三万六〇〇〇円については、昭和四六年二月一九日及び同年三月一九日に受領した前記譲渡代金の一部で同年二月二〇日一〇〇〇万円、同年三月一九日五一五三万六〇〇〇円を支払った。原告は、本件(三)の土地をアサヒゴムから取得し、その取得代金については、松島栄作所有の本件(六)の土地を代替地としてアサヒゴムに提供し、差額金をアサヒゴムに支払う契約になっており、同年八月三一日右差額金三〇九二万二五〇〇円を支払った。原告は、本件(六)の土地を更地としてアサヒゴムに引き渡す契約をしていたが、立退きに予想外の多額の費用がかかるなど本件(三)の土地の取得に追加費用を要するとして、昭和四六年八月間組に対し右不足資金の借用を申し込むとともに、原告としては既に個人で豊島駐車場の間組に対する借入金債務の金利を約一億七〇〇〇万円も支払っており、直ちに右債務を全額取り立てなくてもよいのではないかという気持ちがあり、また、前記割引興業債券をすぐに売却して現金化することは損であること及び前記のとおりの購入の趣旨から右割引興業債券及び前記公社債投資信託の受益証券を保有することとし、本件保証債務の履行期限の延期を申し込んだ。これに対し間組は、本件(一)ないし(三)の土地を一括して譲渡することを大和ビルに確約しており、原告が本件(二)及び(三)の土地を大和ビルに譲渡しなければ間組も契約違反になり相当な損害を受けるので、やむを得ず原告の右申込みを承諾し、同月一八日本件(一)の土地の譲渡代金により豊島駐車場の前記借入金のうち前記二億七五五七万六三〇〇円のみ弁済することとし、債務残額(本件保証債務額)については、その担保として原告外一名所有の土地二筆及び建物二棟に抵当権を設定した上、その履行期限を昭和四七年八月三一日と約した(昭和四六年八月一八日本件保証債務の履行期限を昭和四七年八月三一日と約したことは当事者間に争いがない。)。

その後、昭和四七年に至り原告と間組とは、本件(四)の土地を新栄堂に譲渡し、その譲渡代金をもって本件保証債務の弁済に充当することとし、同年八月一〇日間組と原告及び豊島駐車場との間で、右譲渡代金は一旦間組において全額受領の上原告の取得分を間組から原告に支払うこととし、間組が右譲渡の手付金五〇〇〇万円のうちの原告の取得分三五〇〇万円から二三二八万三六八九円を、右譲渡残代金のうち原告の取得分から残債務額をそれぞれ控除の上弁済を受けることを原告が承認する旨の覚書を取り交した(同日間組と原告及び豊島駐車場との間で覚書を取り交したことは当事者間に争いがない。)

以上の事実を認めることができる。

前記争いのない事実及び右認定の事実によれば、原告は、本件(二)及び(三)の土地の譲渡代金のうち五〇〇〇万円を有価証券で保有していたが、それは当初から必ずしも本件保証債務を履行するためでないことがうかがわれ、おそくとも原告からの本件保証債務の履行期限の延期申込みを間組が承諾した昭和四六年八月一八日の時点では、既に原告は、本件(二)及び(三)の土地の譲渡代金をもって本件保証債務を履行する意思を失っており、その後昭和四七年八月一〇日間組と原告との間の合意により、本件(四)の土地の譲渡代金をもって本件保証債務のうち二三二八万三六八九円を弁済したものと認められる。原告本人尋問の結果中には、本件保証債務を履行するために本件(四)の土地を譲渡したのではない旨の供述部分があるが、右土地の譲渡代金の一部で本件保証債務を履行する旨の合意をした上、右土地の譲渡をしたことは前掲乙第二号証及び第四号証の一から明らかで、右供述部分は措信できない。また原告は、間組の勝手な操作により原告の意思ではいかようにもできない状態で本件(四)の土地の譲渡代金から二三二八万三六八九円が弁済されたと主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

更に原告は、本件(四)の土地の前記売買契約は、後に合意解除されたから、本件保証債務のうち二三二八万三六八九円が本件(四)の土地の譲渡代金により弁済されたものではないと主張し、右合意解除の事実は当事者間に争いがないが、そのような事実があっても、本件保証債務のうち二三二八万三六八九円の弁済が本件(二)及び(三)の土地の譲渡代金によってされたことになるものでないことは、前記認定から明らかであり、その他右弁済が本件(二)及び(三)の土地の譲渡代金によって弁済されたことに帰着するような事実関係を認めるに足りる証拠はない。

よって、本件保証債務のうち二三二八万三六八九円についても、原告の昭和四六年分の譲渡所得の金額の計算上、法第六四条第二項の規定の適用を認めることはできない。

三  以上のとおり、本件更正には原告主張の違法はなく、本件更正を前提としてされた本件決定にも違法はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 菅原晴郎 裁判官 成瀬正已)

別表

〈省略〉

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